
【もう英語力のせいにしない】 アメリカ人の価値観の違いとマネジメント方法
アメリカをターゲットにしたビジネスを展開する日本企業の数は右肩上がりです。日本からアメリカへの輸出額は1位、アメリカから日本への輸入額は2位と、貿易額をみれば一目瞭然です。また、アメリカを拠点に活動する日本企業は約7,000社と、中国に次いで2番目に多い海外拠点でもあるなど、アメリカは間違いなく日本にとって重要なビジネスパートナー国の1つです。一方、日本で暮らすアメリカ人の数は57,214名(2020年6月時点)と2015年比11%増でした。日本企業のアメリカ進出に伴い、アメリカ人を雇用する企業も増えてきています。同僚や上司、部下がアメリカ人という職場は決して珍しいものではなくなりました。
しかし、アメリカ人を雇用する企業の経営者や人事担当の方であれば、下記のようなお悩みを1つ以上お持ちになったことがあるかもしれません。
- アメリカは転職が多いイメージだが、半ば諦めざるを得ないことなのか
- どうすればアメリカ人に長く働いてもらえるのか
- アメリカ人は自己主張が強く、返答に困る時がある
- アメリカ人を他の日本人社員よりも少し特別扱いしている感は否めず、出来れば見直したい
- アメリカ人と日本人、両者が気持ちよく働ける職場環境をつくりたい
したがって、本記事では下記を解説します。
- 日本人とアメリカ人の仕事に対する価値観の違い
- アメリカ人の長期雇用に成功している企業が実践している解決策
- 英語力のせいにせず、アメリカ人とのコミュニケーションをスムーズにする方法
なお、本記事では日本人とアメリカ人の価値観、文化的側面を多く取り上げますが、大前提、個性を無視した取り組みを推奨する訳ではないことをご留意願います。ここで書かれている内容はあくまで「ステレオタイプ」的な考えとして捉え、あくまでコミュニケーションの出発点としていただければ幸いです。
なお、記事をすべて読み込む時間がない方向けにはこちらの資料をダウンロードいただけます。
目次[非表示]
- 1.日本人とアメリカ人の価値観の違い
- 1.1.社会関係(集団・個人)の優先度
- 1.2.上下関係の大きさ
- 1.3.コミュニケーションスタイル
- 1.4.職務範囲の捉え方
- 1.5.会議の発言スタイル
- 2.【転職の多さ】にアプローチする際の注意点
- 2.1.転職に影響する価値観
- 2.2.アメリカ人を雇用する企業が大切にしたいスタンス
- 2.3.ソリューション
- 3.【自己主張の強さ】にアプローチする際の注意点
- 3.1.自己主張の強さに影響する価値観
- 3.2.アメリカ人を雇用する企業が大切にしたいスタンス
- 3.3.ソリューション
- 4.まとめ
日本人とアメリカ人の価値観の違い
マネジメントにおいてネックになりやすい価値観の違いを5つご紹介します。
社会関係(集団・個人)の優先度
「集団」と「個人」どちらを優先するかという「社会関係」は、程度の違いこそあれ、国民文化によって特徴があるとされます。社会生活において、自分を集団の一部とみなし、集団の意見や行動をより尊重する態度を「集団主義」。自分を本質的に個人とみなし、個人の意見や行動をより尊重する態度を「個人主義」と言います。世界的に見ると、日本人はどちらかと言えば「集団主義」であるのに対し、アメリカ人は世界で最も「個人主義」の傾向が強いとされます。教育の現場を振り返ると、日本人は「意見の一致」「調和」を好み、「私たちは」という視点から物事を考えることを学んできました。一方、アメリカ人の思考の起点は「私は」です。集団と個人は完全に切り離して考えられ、個人としてどうありたいかが関心事の中心にあります。
上下関係の大きさ
地位、権力、年齢、身体的/知的能力など、世の中には様々なパワーバランスが存在しますが、国民文化によって受け止め方に差があります。日本とアメリカを比較すると、日本はパワーバランスから生じる不平等をある程度まで許容する「階層社会」。アメリカは不平等を出来るだけなくしたいと考える「平等社会」に分けることができます。例えば、日本は親-子、先生-生徒、上司-部下、先輩-後輩など、上下関係を明確に区別し、目上の者に敬意を払うことを美徳とします。一方、アメリカはパワーバランスに関係なく、皆が平等な存在として扱われることを期待します。
コミュニケーションスタイル
コミュニケーションは、ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化の2つに分類されます。各国どちらの文化に属するか、その程度はまちまちですが、日本と海外諸国(アメリカを含む)を比較すると、日本は極端なハイコンテクスト文化だと捉えても差し支えないでしょう。
日本のハイコンテクスト文化では、コミュニケーションは「受信者」の責任という考え方が一般的です。1を聞いて1しかわからない人は勘所が悪い人と見なされます。一方、アメリカのローコンテクスト文化では、コミュニケーションは「発信者」の責任です。1しか聞かなければ1しかわからないのが当然であり、「説明していないあなたの責任」だと思われます。この考え方がそろっていないと、コミュニケーションでのずれが多発する可能性があります。
職務範囲の捉え方
職務範囲の捉え方は「アメーバ型」と「ピラミッド型[福知1] 」に分けることができます。日本人の働き方は個人の業務の境界線で曖昧です。自分の業務と直接的に関係がなくても柔軟に対応し、助け合う傾向があることから、「アメーバ型」の働き方と呼ぶことがあります。一方、アメリカ人の働き方は個人の裁量範囲が明確な「ピラミッド型」と表現されます。1つのブロックがコミットするべき業務範囲で、それ以外は範疇外とされています。時にはこうした違いが、アメリカ人は違う部署の同僚に対して冷たいという印象を持たれる方もいます。
その特徴は採用形式に表れています。日本は総合職採用が一般的であるのに対し、アメリカはポジション別採用が基本です。
会議の発言スタイル
アメリカ人と日本人は会話の進め方が違います。これは「集団主義」と「個人主義」の違いから影響を受けています。わかりやすく例えると、日本は「レジに並んで会計を待つ風景」です。順番に並んで一人ずつ会計を済ませるように、一人が話している間、他の人は静かに耳を傾けます。集団から発言の許可を得てから発言するのが良いマナーです。一方、アメリカは「バーゲンセールの風景」です。早い者勝ちでセール商品を取り合うかのように、言いたいことがあれば躊躇せず発言し、相手の会話に被せて遮ることもしばしばあります。一人ひとりの意見が尊重される背景から、積極的に発言する人を歓迎し、高く評価します。どちらのスタイルが良い・悪いということはありませんが、このような違いがよく見られます。
【転職の多さ】にアプローチする際の注意点
ここからは、アメリカ人マネジメントでよくあるお悩みを取り上げます。1つ目は「転職の多さ」へのアプローチです。前述した価値観の違いから受ける影響、受入企業が持つべきスタンス、具体的アクションを見ていきましょう。
転職に影響する価値観
そもそも日本とアメリカでは転職の捉え方が大きく異なります。前職または現職での成果や次の勤め先に貢献できるスキル・経験があることは当然として、アメリカでは、転職が様々な企業から引く手あまたな人材である証明・アピールポイントになります。一方、最近は変化が見られるものの、日本企業の多くは、転職の多い候補者は採用しても再度転職されるかもしれないというマイナスのイメージを持ち、忌避する傾向があります。
その背景は、自由競争の生まれやすさから説明できます。前述の「社会関係(集団・個人)の優先度」と「上下関係の大きさ」に着目すると、一般的に、アメリカ人は日本人より「個人主義」「平等社会」の傾向です。全員に等しく機会が与えられる中、一人ひとりが頂点を目指してしのぎを削り合う、競争が生まれやすい環境です。一方、日本人はアメリカ人より「集団主義」「階層社会」の傾向なので、集団の秩序、年齢や役職といった階層を無視した自由競争はアメリカより発生しづらい環境と言えます。
その特徴は、採用方法の違いとなって表れています。最近は変わってきていますが、従来、日本は新卒一括採用・終始雇用が主流なので、定年を見据え、年数を重ねながら、スキル・経験を獲得すれば良いと考えられます。一方、アメリカは通年採用であり、社会人経験の有無に関係なく入社前から即戦力を求めます。このことから、アメリカ人は即戦力を身につけるために、転職を重ねながら沢山のスキルを集め、「個」を強化します 。
アメリカ人を雇用する企業が大切にしたいスタンス
アメリカ人を雇用する企業は、日常業務の範囲に留まらず、「キャリアプランに寄り添う」スタンスが大切です。前述の特徴から、アメリカ人は日本人よりもキャリアプランを早期に考える習慣が身についています。キャリアプランが明確で、やりたいことや目標がはっきりしている場合が多いので転職も日本人より多くなりがちです。企業の方向性と個人の方向性が変わった途端に突然の離職もあり得えます。したがって、キャリア志向の強い傾向があるアメリカ人に突然離職されないためには、定期的にキャリアプランの相談に乗る時間を企業側から用意すると良いでしょう。 「個人の志向や価値観は企業に親和性があるのか」「本人がやりたいことは他の部署で満たせないのか」など、定期的に確認することで、今の職場で働く納得感を醸成しやすくなります。
ソリューション
定期的にキャリアプランの相談に乗ると一口で言っても、ただ相談時間を用意すれば、腹を割って話してもらえるものでもありません。普段から会話の少ない上司にいきなり個人的なキャリアの相談はしにくいものです。キャリアの相談に乗る際、おさえておきたいポイントは2点です。
1点目は、お互いのコミュニケーションスタイルの違いを理解することで、より良い信頼関係を築くことです。前述の通り、日本人は、「阿吽の呼吸」や「以心伝心」に象徴されるよう、発信者側が直接的な表現を極力回避する代わりに、受信者側が相手の真意を推しはかろうとします。一方、アメリカでは、発信者側に意思伝達の全責任があり、伝わったことが全てと見なされるので、出来るだけわかりやすく話そうとします。日本人同士のコミュニケーションと同じ方法をローコンテクストの文化圏の人にそのまま適用すると、齟齬や誤解が発生しやすくなり、次第に不信感が積もるでしょう。したがって、日本人がアメリカ人と話す時は、ローコンテクスト文化に配慮し、出来るだけ丁寧なコミュニケーションを心掛けます。具体的には婉曲的な表現は避け、直接かつ具体的に伝えましょう。例えば、直してもらいたいことがある場合、「リーダーとして期待しているよ」で終わるのではなく「チームの売上を120%伸ばすことを目指してくれ」とダイレクトに言った方が、相手もしっかり受け止められます。
2点目は、企業に所属する魅力要因のすり合わせを定期的に行うことです。人が企業に所属する理由は給与や条件面だけではありません。例えば、「このチームが好きだから」「〇〇さんと働けるから」のように、人員構成は組織に所属する魅力の1つです。企業に所属する理由は国籍に関係なく、一人ひとり異なります。そこで使えるのが弊社グループにて用いられるフレームワーク「4P」です。これは社会心理学等をもとに、人が組織に所属する魅力要因を整理したものです。これを活用し、外国籍人材にとって今の企業に所属する魅力・意味を定期的に確認することで、企業と社員のエンゲージメントを維持・強化することができます。フレームワーク「4P」を活用して、本人が一番大事にしている価値観を確認する中で、企業を変えずとも、他の部署で実現できないか、転職しなければ実現できないことなのかなど、検討・交渉の余地が生まれます。
【自己主張の強さ】にアプローチする際の注意点
次に、アメリカ人マネジメントでよくあるお悩み「自己主張の強さ」に対するアプローチです。前述した価値観の違いから受ける影響、受入企業が持つべきスタンス、具体的アクションを見ていきましょう。
自己主張の強さに影響する価値観
アメリカ人雇用企業からよく上がるお悩みは、「職務範囲へのこだわりが強すぎて協調性に不安がある」「自己主張が強く、会議が上手く回らないイメージがある」などです。このようなお悩みが生まれる背景も、前述の「社会関係(集団・個人)の優先度」と「上下関係の大きさ」に着目するとヒントが見えてきます。アメリカ人は、一人ひとり価値観が異なること、全員が平等に自由な発言権を持つことを当然と考えるので、心の内を語る人こそが誠実な人と捉えます。一方、日本人は目上の者の意見を敬い、個人の意見よりも集団全体の決定に従います。集団の調和を乱す、自分勝手な意見は時に悪と見なされます。
これらの違いは教育の現場によく表れています。アメリカでは、先生と生徒の立場は対等です。授業や学外活動などを通して、パブリックスピーキングの機会が多く取り入れられています。決まった正解は設けず、違う価値観を持つ人の立場も考えた上、最終的な判断は個人に委ねられます。このように、アメリカの教育は自主性・自己肯定感・個性が育つシステムと言えます。一方、日本では、年少者が年長者に教えを乞うスタイルです。どちらかと言えば、間違いを指摘し、全員が等しい状態を目指すといった、同調圧力の強い教育が施されてきました。このような、幼少期からの教育スタイルの違いが、国民性に大きな影響を及ぼしている可能性があります。
アメリカ人を雇用する企業が大切にしたいスタンス
アメリカ人を雇用する企業は、価値観の「違い」を「強み」として活かすスタンスが大切です。アメリカ人を雇用する理由は、販路開拓やパートナー企業との連携、英語指導など、企業によって様々です。最近は言語面のフォロー以上に、イノベーションが重視される時代になりました。そこで力になるのが、価値観の異なる多様なバックグラウンドを持つ人材です。日本人だけの組織では出てこなかったアイディアや意見が出てくるでしょう。今一度、アメリカ人を含む外国籍人材を雇用した真の目的に立ち返りましょう。無意識のうちに我々日本人を支配する「同調圧力」などのバイアスに気付くとともに、違いを打ち消すのでなく、せっかくなら存分に「活かす」スタンスを持つことが、アメリカ人社員、ひいては事業の将来と上手く向き合うポイントです。
ソリューション
価値観の「違い」を「強み」として活かすポイントを2点ご紹介します。
1点目は、仕事のスタンスの違いを認識し、お互いが合意できる働き方を一緒に模索することです。前述の「職務範囲の捉え方」の通り、アメリカ人と日本人とでは仕事へのスタンスが異なります。一方の働き方を無視し、理由なく強要すれば、もう一方の働き方をする人たちからの反感を招き、職場環境を悪化させるばかりか、全体のパフォーマンスを低下させる恐れがあります。したがって、アメーバ型とピラミッド型のメリット・デメリットを今一度整理し、自社にマッチする働き方を模索することをお勧めします。
2点目は、社内における会話マナーを決めることです。アメリカ人と日本人は会話の進め方が違います。わかりやすく例えると、日本は「レジに並んで会計を待つ風景」です。順番に並んで一人ずつ会計を済ませるように、一人が話している間、他の人は静かに耳を傾けます。一方、アメリカは「バーゲンセールの風景」です。早い者勝ちでセール商品を取り合うかのように、言いたいことがあれば躊躇せず発言し、相手の会話に被せて遮ることもしばしばあります。どちらが良い・悪いということではなく、あくまでスタイルの違いですが、こんな違いがあると会議はうまく進みませんので、 両者合意の下で会話のマナーを決めることが有効です。例えば、日本の職場で発言する時は、話者を尊重して「レジ型」に合わせてもらう、もしくは、話し合いを機に社内独自の会話マナーを新しく発案しても良いかもしれません。
アメリカ人マネジメント方法
ダウンロード資料もございます。はじめてアメリカ人を雇用・マネジメントする上での注意点をまとめています。既にアメリカ人を雇用している企業の方にも、これまでのマネジメントを見直すきっかけとして是非ご活用ください。
まとめ
アメリカ人を雇用する日本企業にとって、マネジメントでネックになりやすい価値観の違い、よくあるお悩みに対する解決のヒントをお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。お伝えした内容を下記のようにまとめました。
- 社会関係:アメリカ人は「集団」よりも「個人」の意見を尊重する「個人主義」
- 上下関係:アメリカ人は立場に関係なく皆が平等であるべきと考える「平等主義」
- コミュニケーション:アメリカ人のコミュニケーションスタイルは「発信者」に責任のある「ローコンテクスト文化」
- 職務範囲:アメリカ人の働き方は個人の裁量範囲が明確な「ピラミッド型」
- 発言タイミング:アメリカ人は言いたいことがあれば躊躇せず積極的に発言する「バーゲンセール型」
【転職の多さ】にアプローチする際の注意点
〇転職に影響する価値観
- 転職は様々な企業から引く手あまたな人材である証明・アピールポイント
- アメリカは通年採用のため、社会人経験の有無に関係なく入社前から即戦力を求められるので、転職を重ねながら沢山のスキルを集め、「個」を強化することへの関心が強い
〇アメリカ人を雇用する企業が大切にしたいスタンス
- 「キャリアプランに寄り添う」スタンス
- キャリア志向の強い傾向があるアメリカ人に突然離職されないためには、定期的にキャリアプランの相談に乗る時間を企業側から用意すると良い
〇ソリューション
- ローコンテクスト文化に配慮し、出来るだけ丁寧なコミュニケーションを心掛けることで、より良い信頼関係を築く
- 企業に所属する魅力要因のすり合わせを定期的に行うことで、企業と社員のエンゲージメントを維持・強化する
【自己主張の強さ】にアプローチする際の注意点
〇自己主張の強さに影響する価値観
- アメリカ人は、一人ひとり価値観が異なることを前提に、自由に意見を発信する機会が全員に平等に与えられるべきだと考えている
- アメリカ人は自主性・自己肯定感・個性が育つ教育システムの影響を強く受けている
〇アメリカ人を雇用する企業が大切にしたいスタンス
- 価値観の「違い」を「強み」として活かすスタンス
- 外国籍人材を雇用した真の目的に立ち返ってマネジメント方法を考える
〇ソリューション
- 仕事のスタンスの違いを認め、お互いが合意できる働き方を一緒に模索する
- 会話の進め方が違うことを認め、両者合意の下、社内における会話マナーを決める
アメリカ人社員と日本人社員の両方が、お互いの価値観の違いを把握し、気軽に相談し合える信頼関係を普段から築くことができれば、不安に思うことは実は多くありません。アメリカ人を雇用した当初の目的を振り返るとともに、今後企業が目指す未来を見据える中で、アメリカ人と日本人の価値観の違いを打ち消すよりも、強みとして大いに活かすという選択肢が広がることを願ってやみません。弊社お助け資料が貴社のアメリカ人マネジメントの一助になれば幸いです。
「もっと具体的に詳しく知りたい」「個々のケースを相談したい」という方は、リンクジャパンキャリアまでお気軽にお問合せください。